はじめに
国際税務では「183日」という数字が頻繁に登場します。中国では税務上の居住者判定、米国ではSubstantial Presence Test、日本と各国との租税条約では給与所得の短期滞在者免税など、さまざまな場面で183日が基準として使用されています。
しかし、同じ「183日」であっても、その意味や日数の数え方は同じではありません。特に中国で勤務する外国人や、中国と日本・米国等を頻繁に行き来する役職員については、国内法と租税条約の滞在日数を混同しないことが重要です。
まず結論―入国日・出国日はどう数えるのか
| 制度 | 入国日 | 出国日 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|---|
| 中国国内法 | 原則含めない | 原則含めない | 中国国内に24時間滞在した日のみ1日 |
| 米国SPT | 原則含める | 原則含める | 一日の一部でも米国内にいれば原則1日 |
| 日本国内法 | ― | ― | 一般的な183日居住者基準はない |
| 一般的な租税条約 | 原則含める | 原則含める | Physical presenceを基礎として計算 |
つまり、例えば同じ「1月1日入国、7月2日出国」という滞在であっても、中国国内法と租税条約では計算される日数が異なる可能性があります。
中国国内法―24時間滞在した日のみ1日として計算
中国個人所得税法では、中国国内に住所を有しない個人について、一納税年度に中国国内に累計183日以上居住した場合には「居民个人」、183日未満の場合には「非居民个人」とする基準が設けられています。中国の納税年度は1月1日から12月31日までです。
この183日の計算について、中国では独特の「24時間ルール」があります。無住所個人が中国国内に滞在した日のうち、その日に中国国内に満24時間滞在した場合には1日として計算しますが、24時間未満の場合には中国国内居住日数に算入しません。
したがって、通常の入国日は入国前の時間を中国国外で過ごしており、出国日は出国後の時間を国外で過ごすため、入国日・出国日の双方が原則として中国国内法上の居住日数から除外されます。
例えば、2026年1月1日に中国へ入国し、7月2日に出国した場合、暦上は183日の期間ですが、中国国内法上は原則として1月2日から7月1日までの181日となります。
中国では183日判定の先に「6年ルール」がある
中国で183日を確認する目的は、その年について居民个人か非居民个人かを判断することだけではありません。無住所個人については、中国国外源泉所得の課税範囲との関係で、いわゆる「6年ルール」も重要になります。
無住所個人が中国国内に183日以上滞在した年度が継続する場合でも、過去6年のいずれかの年度で中国滞在が183日未満であった場合、または183日以上滞在した年度の中で1回30日を超える連続出国がある場合には、一定の国外源泉・国外払い所得について中国で免税となる余地があります。
したがって、中国の出入国記録は単にその年の183日判定だけに使うものではありません。毎年の183日判定と、30日を超える連続出国の有無を継続的に管理することが、外国人駐在員の中国個人所得税では重要です。
米国―一日の一部でも米国内にいれば原則1日
米国では、外国人が米国税務上の居住者となるかを判定する基準の一つとしてSubstantial Presence Test(SPT)が設けられています。
SPTでは、当年に少なくとも31日米国に滞在していることを前提として、当年の滞在日数の100%、前年の3分の1、前々年の6分の1を合計し、その合計が183日以上となるかを判定します。
米国では原則として、その日の一部でも米国内に物理的に存在していれば1日として扱われます。したがって、通常は入国日も1日、出国日も1日として計算します。
もっとも、国外の二地点間を移動する際に24時間未満米国を通過した日、一定の学生・教師等が「exempt individual」に該当する期間、一定の医療上の理由による滞在など、SPTの日数から除外される場合があります。
日本―国内法上の一般的な183日ルールはない
日本については、「183日以上日本に滞在すると税務上の居住者になる」と理解されることがありますが、日本の所得税法にはそのような一般的な183日居住者基準はありません。
日本では、国内に「住所」を有するか、または現在まで引き続いて1年以上「居所」を有する個人が居住者とされます。「住所」は生活の本拠を意味し、住居、職業、家族、資産その他の客観的事実を基礎として判断されます。
したがって、日本に183日未満しか滞在していなくても、生活の本拠が日本にあると認められれば居住者となることがあります。反対に、「183日」という数字だけから日本国内法上の居住者・非居住者を判断することもできません。
租税条約上の183日―入国日・出国日は原則として両方算入
国内法とは別に、租税条約における給与所得の短期滞在者免税でも183日という基準が広く使われています。
一般的な租税条約では、勤務地国における滞在が所定の183日以内であることに加えて、給与が勤務地国の居住者でない雇用主から支払われること、給与が勤務地国に所在するPE等によって負担されないことなどの要件を満たす場合、勤務地国での給与課税が免除されることがあります。
この183日の計算では、一般にphysical presence、すなわち実際にその国に物理的に滞在した日数を基礎として判定します。そのため、一日の一部でも滞在していれば原則として1日となり、入国日および出国日の双方を算入します。
例えば、中国に1月1日に入国し7月2日に出国した場合、中国国内法上の183日判定では原則181日となる一方、租税条約上のphysical presenceでは183日となる可能性があります。同じ出入国記録を使用していても、目的によって日数が異なることになります。
「どの期間の183日か」も条約によって異なる
租税条約では、日数の数え方だけでなく、183日を数える対象期間にも注意が必要です。
例えば、現在の日中租税条約では、給与所得の短期滞在者免税について*関係暦年中」に合計183日を超えないことが要件となっています。したがって、原則として1月1日から12月31日までの各暦年について判定します。
これに対し、日米租税条約では、その課税年度に開始または終了するいずれの12か月間についても183日を超えないことが要件です。そのため、12月と翌年1月に滞在を分けるだけで183日判定をリセットできるわけではありません。
他の租税条約でも、「暦年」「課税年度」「いずれの12か月間」など異なる基準が使用されています。したがって、「183日以内だから短期滞在者免税が使える」と判断する前に、適用される租税条約の具体的な条文を確認する必要があります。
実務では一つの滞在日数表だけで判断しない
中国で勤務する外国人については、同じパスポートの出入国記録から複数の日数を計算する必要がある場合があります。
例えば、中国個人所得税法上の居住者判定では入出国日を原則除外する一方、租税条約上の短期滞在者免税では入出国日を原則として含めます。米国との関係があれば、さらにSPT用の日数を別途計算する必要があります。
したがって、実務では単に「今年は中国に何日いましたか」と集計するだけではなく、何の税務判定のために日数を計算しているのかを先に明確にすることが重要です。
中国に関係するクロスボーダー勤務者については、少なくとも中国国内法上の居住日数、6年ルール管理用の出入国記録、適用租税条約上の滞在日数を区別して管理することが望まれます。
まとめ
「183日ルール」という一つの世界共通ルールが存在するわけではありません。
中国国内法では、無住所個人について中国国内に24時間滞在した日のみを原則として1日とするため、通常の入国日・出国日は算入されません。米国のSPTでは、一日の一部でも米国内に存在すれば原則として1日となります。日本国内法には一般的な183日居住者基準そのものがありません。一方、租税条約上の短期滞在者免税では、一般にphysical presenceを基礎として入国日・出国日の双方を算入します。
さらに、租税条約によって、183日を判定する期間が暦年、課税年度、任意の12か月間など異なることがあります。
したがって、国際的に移動する個人の税務では、「183日を超えたか」ではなく、「どの国の、どの法律または租税条約について、どの期間と計算方法で183日を判定しているのか」を確認することが重要です。
※本稿は、中国、日本、米国の国内税法および租税条約における滞在日数について一般的な概要を説明するものです。実際の課税関係は、住所・居住状況、国籍、雇用関係、給与の負担関係、所得の源泉地、対象年度および適用される租税条約の具体的な規定等によって異なる場合があります。
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