はじめに
中国では2026年1月1日から「中華人民共和国増値税法」および「増値税法実施条例」が施行され、増値税制度が新たな法体系のもとで運用されている。これに伴い、国家税務総局は2026年2月1日付で「国家税務総局による増値税納税申告関連事項の調整に関する公告」(国家税務総局公告2026年第6号)を公布し、増値税申告における一部の記載方法を調整した。
今回のポイントは、増値税申告表そのものが全面的に新様式へ変更されたわけではないことである。国家税務総局は、既存の申告表の様式を基本的に維持しながら、2026年1月から適用される新しい増値税制度との整合性を確保するため、一部の欄について記載範囲や記載方法を見直している。
中国に現地法人や支店を有する日本企業にとっては、税率や課税関係だけでなく、会計データをどの申告欄に反映させるかという実務面にも注意が必要である。特に「役務」関連項目、差額控除、零細・小規模納税人の起征点、仕入税額控除、油気田企業の予納などについては、従来の申告方法をそのまま使用すると誤申告につながる可能性がある。
本稿では、2026年の中国増値税申告表における主な変更点と、日本企業が中国子会社の申告実務を管理する際のポイントを解説する。
1. 今回の増値税申告表の変更は「様式変更」ではなく「記載方法の調整」である
今回の改正について、まず押さえておきたいのは、申告表の様式そのものを大幅に作り替えたものではないという点である。
国家税務総局公告2026年第6号では、一般納税人向けの「増値税及び附加税費申告表」、小規模納税人向けの申告表、増値税予納表およびその附表について、一部の欄の記載方法を調整している。納税者は当面、従来の申告表を使用しながら、調整後のルールに従って各欄を記載することとされている。公告は2026年2月1日から施行されている。
これは、増値税法の施行に伴うシステム改修や企業側の申告実務への影響をできるだけ抑えることを意図したものである。国家税務総局も、申告表の様式を維持し、既存の財務・税務ソフトへの改修を最小限にする方針を示している。
したがって、「2026年から増値税申告表が全面的に新様式になった」と理解するよりも、「既存の申告表について、一部の記載項目と記載範囲が新しい増値税法に合わせて変更された」と理解する方が正確である。
2. 「役務」の取扱いが変わり、サービスとの区分に注意が必要
今回の変更で特に重要なのが、「役務」に関する記載方法である。
新しい増値税制度では、従来の「加工・修理・修配役務」が「加工・修理・修配サービス」と整理され、サービスの範疇に組み込まれることとなった。これに伴い、一般納税人の申告表における「課税役務販売額」などの記載範囲も調整されている。
一般納税人の申告表では、第3欄「課税役務販売額」の記載範囲が拡張され、適用税率により増値税を計算する課税サービス(加工・修理・修配サービスを含む)、無形資産および不動産の販売額を記載することとなった。
また、第10欄「免税役務販売額」についても、政策上増値税が免除されるサービス、無形資産、不動産および一定のゼロ税率取引に係る販売額が対象となる。ただし、免除・控除・還付方式が適用されるゼロ税率販売額については、この欄に含めない点に注意が必要である。
一方、附表における「役務」と「サービス」の表記には一定の区別が残されている。「役務」は加工・修理・修配サービスを指し、「サービス」は加工・修理・修配サービスを含まないという整理が示されている。
このため、単に勘定科目の名称だけを見て申告欄を判断するのではなく、実際の取引内容と申告表上の定義を確認する必要がある。
3. 差額控除に関する記載方法も確認が必要
新しい増値税制度では、販売額の計算方法に関するルールの整理に伴い、差額控除に係る申告方法も調整されている。
今回の申告実務では、取引について関連する金額を控除した後の残額を販売額として計算する場合や、税込販売額から一定の金額を控除した後に売上税額または納付税額を計算する場合について、控除額を所定の附表に記載する必要がある。
一般納税人については「増値税及び附加税費申告表附列資料(三)」、小規模納税人については所定の附表を使用して控除状況を記載する。国家税務総局の解説では、金融商品譲渡など、販売額を関連金額控除後の差額で計算する取引についても具体的な記載例が示されている。
日本企業にとっては、売上高を会計上どのように計上しているかだけでなく、中国増値税上の「販売額」がどのように算定されるかを確認することが重要である。
特に金融商品取引、仲介・代理取引その他の差額計算が関係する取引については、会計上の売上金額と増値税申告上の課税売上額が一致しない可能性があるため、申告時に個別確認が必要となる。
4. 小規模納税人の免税売上額の記載方法が変更
小規模納税人についても、今回の申告表調整により重要な変更がある。
従来、小規模納税人の申告表には「小規模・零細企業の免税販売額」などを記載する欄が設けられていた。今回の制度変更により、増値税の起征点未満による免税について、その対象者と記載欄をより明確にする調整が行われた。
個人事業主および自然人以外の納税人については、第10欄「小微企業免税販売額」および第18欄「小微企業免税額」に、当期の起征点未満による免税販売額および免税額を記載する。
一方、個人事業主および自然人については、第11欄「起征点未達販売額」および第19欄「起征点未達免税額」を使用するという区分となっている。
この変更は、単なる欄の名称変更ではなく、誰がどの欄を使用するのかという申告実務上の区分に関係するため、小規模納税人に該当する中国子会社では注意が必要である。
5. 仕入税額控除に関する「その他」欄の記載範囲を拡大
一般納税人の仕入税額控除についても、一部の記載方法が明確化された。
一般納税人の附表(二)では、「その他」に該当する仕入税額および仕入税額転出について、記載対象が追加されている。
例えば、上海黄金交易所または上海先物取引所から一定の標準金を購入し、所定の文言が記載された普通発票を取得した場合、その金額および規定に基づき計算される仕入税額について、附表(二)の「その他」に記載することとされている。
また、非課税取引に使用するため控除できない仕入税額、年度清算による調整、長期資産に係る控除不能仕入税額など、新しい増値税制度に基づき仕入税額を転出する場合についても、「その他の仕入税額転出」の欄に記載する取扱いが示されている。
一般的な日本企業にとって標準金取引が頻繁に発生するとは限らないが、重要なのは、今回の変更によって「その他」という欄の内容がより明確になったことである。
中国子会社の月次決算では、仕入税額控除の対象外となる費用や年度末調整項目について、会計担当者と税務担当者の間で仕入税額転出の要否を確認する体制が重要となる。
6. 油気田企業の増値税予納表にも新しい記載項目
今回の変更は通常の月次・四半期申告だけではなく、増値税の予納にも及んでいる。
油気田企業が、原油・天然ガスの生産に関連するサービスを省・自治区・直轄市をまたいで提供する場合に対応するため、「増値税及び附加税費予納表」に「生産生活サービス」の項目が新設された。
また、売上額、控除額、予徴率、予徴税額などの記載方法も補足されている。
さらに、こうした予納税額については、一般納税人の主表第28欄「分次予納税額」に記載し、当期の納付すべき増値税額から控除することができる。不足分については翌期以降に繰り越して控除する取扱いが示されている。
一般的な日系企業に直接関係するケースは限定的であるが、中国国内で特殊な事業を展開している企業では、所在地だけでなく、実際のサービス提供地や予納義務の有無まで確認する必要がある。
7. 申告システムの機能も変更され、入力時のチェックが強化
今回の制度変更では、申告表だけでなく、税務申告システム側の入力支援機能も強化されている。
例えば、「その他」の仕入税額や仕入税額転出を入力する場合、システム上で詳細項目を選択するためのポップアップが表示され、納税人が適切な内容を選択できるようになっている。
また、政策変更によって誤入力が発生しやすい項目については、システムによる注意喚起も行われる。国家税務総局は例として、小規模納税人の従来の5%税率欄を入力した場合、現在の政策に応じた確認を促す表示が出る仕組みを紹介している。
これは、中国の税務申告が単なる紙ベースの申告から、電子申告システムによるデータチェックを前提とした運用へさらに移行していることを示すものである。
したがって、企業側でも会計システム、請求書管理、税務申告ソフトのデータ連携について、2026年の制度変更に対応できているかを確認する必要がある。
8. 日本企業が確認すべき実務上のポイント
2026年の中国増値税申告について、日本企業が特に確認すべきポイントは、申告表の名称や様式だけではない。
第一に、中国子会社が一般納税人なのか小規模納税人なのかを確認する必要がある。納税人の区分によって使用する申告表および記載欄が異なるためである。
第二に、売上取引について、商品、加工・修理・修配サービス、その他のサービス、無形資産、不動産など、取引内容を正確に分類する必要がある。特に加工・修理・修配サービスについては、従来の「役務」という認識だけで申告欄を判断しないことが重要である。
第三に、差額控除の対象となる取引について、会計上の売上金額と増値税上の販売額の計算方法が一致しているかを確認する必要がある。
第四に、仕入税額控除については、控除可能な仕入税額だけでなく、控除不能となる仕入税額や仕入税額転出についても確認する必要がある。
第五に、税務申告ソフトが新しい記載ルールに対応しているかを確認することが重要である。特に中国子会社の税務申告を外部の会計事務所や税務代理人に委託している場合には、2026年の新制度への対応状況を確認しておくことが望ましい。
9. 今回の変更を「申告表の全面改訂」と理解しないことが重要
2026年の中国増値税制度については、「増値税法が施行されたため、増値税申告表も全面的に新しくなった」と説明されるケースがある。しかし、これは正確な表現ではない。
国家税務総局の公告では、既存の一般納税人申告表、小規模納税人申告表、増値税予納表などを引き続き使用しながら、一部の欄について記載方法を調整するという方法が採用されている。
つまり、企業側に求められているのは、申告表を一から作り直すことではなく、新しい増値税法に基づく取引分類、売上額計算、免税取引、仕入税額控除などを正しく理解し、それを既存の申告表の適切な欄に反映することである。
中国子会社の税務管理においては、「どの税率を適用するか」だけでなく、「その取引を申告表のどの欄に入力するのか」という視点がより重要になっている。
おわりに
2026年1月1日から施行された中国増値税法および実施条例は、中国の増値税制度を法制化・整理する重要な改正である。これに対応して、国家税務総局は2026年2月1日から増値税申告に関する一部の記載方法を調整している。
今回の変更では、申告表の様式自体は基本的に維持されているものの、「役務」と「サービス」の記載範囲、差額控除、小規模納税人の起征点未満免税、仕入税額控除および転出、油気田企業の予納など、実務上重要なポイントが見直されている。
特に日系企業の場合、中国本社・子会社間取引、サービス取引、無形資産取引、費用精算、仕入税額控除など、増値税の取扱いが複雑になりやすい取引も多い。そのため、2026年以降は、単に申告ソフトが正しく動作していることを確認するだけでなく、会計処理と増値税申告上の取引分類が一致しているかを定期的に確認することが重要である。
中国子会社の増値税申告については、制度改正の内容だけでなく、実際の取引内容、発票の種類、仕入税額控除の可否、申告表上の記載欄まで一体的に確認する必要がある。中国税務に精通した専門家と連携し、2026年の新しい増値税制度に対応した申告・会計体制を整備することが、税務リスクの低減につながるのである。