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外国会計事務所は中国で監査業務を実施できるのか

中国・日本・米国の監査制度を比較し、クロスボーダー監査実務を読み解く
2026年7月3日 by
外国会計事務所は中国で監査業務を実施できるのか
KAZUHISA MOCHIZUKI


はじめに

中国企業の海外展開や、多国籍企業グループによる中国投資が進展する中で、「外国の公認会計士や会計師事務所は、中国国内において監査業務を実施することができるのか」という質問を受ける機会が増えています。

この問題は、単に外国CPAや外国会計師事務所の資格の有無だけで判断できるものではありません。中国では、法定監査報告を発行できる主体が登録会計師及び会計師事務所に限定される一方、外国会計師事務所による一定のクロスボーダー監査については、財政部の規定に基づく「臨時執業制度」が設けられています。

他方、日本では公認会計士法により、財務書類の監査又は証明を業として行うこと自体が公認会計士及び監査法人に限定されています。米国では、州CPA法及びPCAOB制度により、監査及びその他の attestation services を提供できる主体が規律されています。

本稿では、既存記事「日本・中国・米国における監査制度の比較」を踏まえつつ、特に中国における外国会計師事務所の臨時執業制度を中心に、クロスボーダー監査実務上の留意点を整理します。


1. 中国における監査制度の基本構造

中国における監査制度の中心となる法律は、「中華人民共和国登録会計師法(中华人民共和国注册会计师法)」です。

同法は、登録会計師が行う業務として、企業会計報表の審査及び監査報告書の発行、資本検証、企業の合併・分割・清算等に係る監査業務、その他法令で定められた監査業務を規定しています。

また、登録会計師の業務は、所属する会計師事務所が統一して受理し、委託者との契約を締結する仕組みとされています。したがって、中国では、登録会計師が個人として独立して法定監査業務を受任する制度ではなく、会計師事務所を通じて監査業務が実施される構造となっています。

この点において、中国法は、法定監査報告を発行できる主体を登録会計師及び会計師事務所に限定する制度を採用していると整理することができます。

もっとも、中国法は、日本の公認会計士法第47条の2のように、「財務書類の監査又は証明を業として行うこと」を包括的に禁止する形式を採っているわけではありません。むしろ、登録会計師及び会計師事務所を法定監査報告の発行主体として位置付け、登録会計師が法令に従って実施した監査報告に証明効力を認める構造を採用していると理解するのが適切です。


2. 日本制度との比較

日本では、公認会計士法第2条第1項が、公認会計士の業務として「財務書類の監査又は証明」を規定し、同法第47条の2において、公認会計士又は監査法人でない者が当該業務を業として行うことを原則として禁止しています。

このため、日本法は、監査報告書への署名権限だけを規制する制度ではなく、監査証明業務そのものを公認会計士及び監査法人へ限定する「業務独占型」の制度であるといえます。

これに対し、中国法は、監査証明業務そのものについて日本法と同じ形式の包括的禁止規定を置くのではなく、法定監査報告の発行主体を登録会計師及び会計師事務所に限定する「法定監査主体限定型」の制度として理解することができます。

もっとも、実務上はいずれの制度においても、無資格者又は法令上認められていない主体が、法的効力を有する監査報告書を発行することは認められていません。その意味では、日本と中国は異なる法技術を用いながら、監査報告の信頼性を確保しているといえます。


3. 外国会計師事務所による中国国内での臨時執業

中国において最も重要な論点は、外国会計師事務所が中国国内で監査手続を実施できる場合があるという点です。

財政部が公布した「境外会計師事務所在中国内地臨時執行審計業務暫行規定」(財会〔2011〕4号)は、香港、マカオ、台湾又は外国で設立された会計師事務所が、中国国内において一時的に監査業務を実施するための制度を定めています。

この制度における「臨時執業」とは、外国会計師事務所が中国国外の委託者から依頼を受け、中国国内に設立された会社その他関連機構について、一時的に監査手続を実施することを意味します。

例えば、米国親会社が米国の監査法人にグループ監査を依頼し、その一環として中国子会社に関する監査証拠を取得するために、当該監査法人が中国国内で一定の監査手続を実施するようなケースが典型例として想定されます。

ただし、この制度は外国会計師事務所が中国市場で自由に監査業務を行うことを認めるものではありません。外国会計師事務所が中国国内で臨時執業を行うためには、所定の申請を行い、財政部門の批准を受け、臨時執業許可証を取得する必要があります。

また、臨時執業の業務範囲は、中国国外の委託者から委託された監査業務に限定されます。さらに、その報告は中国国内において法律上の効力を有するものではなく、中国法令上、中国国内の会計師事務所及び登録会計師が実施すべき業務について、外国会計師事務所が代替して実施することは認められていません。

したがって、外国会計師事務所が中国国内で一定の監査手続を行うことは可能であるとしても、それは中国法上の法定監査報告を発行する権限を意味するものではありません。この点を誤解すると、グループ監査上の手続と、中国国内法上の法定監査とを混同することになります。


4. 中国国内企業の海外上場監査との関係

外国会計師事務所による中国国内での活動を検討する際には、中国国内企業の海外上場監査についても注意が必要です。

財政部が公布した「会計師事務所従事中国内地企業境外上市審計業務暫行規定」(財会〔2015〕9号)は、中国国内企業が直接又は間接に海外で株式、債券その他有価証券を発行し上場する場合の関連監査業務について、特別なルールを設けています。

同規定では、中国国内企業の海外上場に関連する監査業務は、財会〔2011〕4号に基づく単なる臨時執業の範囲には含まれないとされています。したがって、外国会計師事務所が臨時執業方式によって中国国内へ入り、海外上場関連監査を実施することは認められていません。

この制度は、中国国内企業の海外資本市場における開示情報の信頼性を確保するとともに、中国当局による監督可能性を維持することを目的としていると考えられます。

さらに、2024年には「境外会計組織境内業務活動管理弁法」(財会〔2024〕23号)が公布され、外国会計組織による中国国内での業務活動について、より広い観点から管理体制が整備されました。これは、中国当局がクロスボーダー会計・監査関連活動に対するガバナンスを一層重視していることを示すものといえます。


5. 米国制度との比較

米国制度は、日本及び中国とはさらに異なる構造を採用しています。米国には、日本の公認会計士法や中国の登録会計師法のような全国統一の会計士法は存在せず、CPA制度は各州法により規律されています。

もっとも、各州のAccountancy Actには共通する基本構造があります。すなわち、監査、レビュー、examination、attestation services などの保証業務は、原則として有効なCPAライセンスを有する者又は登録CPA Firmのみが提供できるものとされています。

したがって、米国制度は、日本のような監査証明業務の業務独占型ではなく、州法に基づくライセンス規制型の制度であると整理することができます。

さらに、SEC登録会社の監査については、州CPA法だけでなく、PCAOB登録会計事務所であることが必要となります。そのため、米国公開会社監査では、州CPA制度とPCAOB制度が重層的に機能し、監査品質及び投資家保護を確保する仕組みとなっています。


6. クロスボーダー・グループ監査における実務上の示唆

日本、中国及び米国の制度を比較すると、いずれも監査報告の信頼性を確保することを目的としながら、その法技術は異なります。

日本は、監査証明業務そのものを公認会計士及び監査法人へ限定する業務独占型の制度です。中国は、法定監査報告の発行主体を登録会計師及び会計師事務所へ限定しつつ、外国会計師事務所については臨時執業制度という限定的な例外を設けています。米国は、州CPA法及びPCAOB制度を通じて、監査及びその他の attestation services を提供できる主体を規律する制度です。

この違いは、国際企業グループの監査体制に直接影響します。例えば、米国親会社が中国子会社を有する場合、米国監査法人がグループ監査の一環として中国子会社に関する監査証拠を必要とすることがあります。この場合、中国国内で監査手続を行う外国会計師事務所は、財会〔2011〕4号に基づく臨時執業制度の適用可能性を確認する必要があります。

一方、中国子会社が中国国内法上の法定監査報告を必要とする場合、その報告書は中国法に基づき認められた登録会計師及び会計師事務所によって発行される必要があります。外国会計師事務所がグループ監査目的で作成した報告書を、中国国内法上の法定監査報告として使用することはできません。

また、日本子会社について外国CPAが独立して日本法上の監査証明業務を提供することも、公認会計士法との関係で慎重な検討が必要です。日本の公認会計士又は監査法人の指揮・監督下で監査補助者として関与する場合と、独立した監査証明業務を提供する場合とでは、法的評価が大きく異なります。


おわりに

外国会計師事務所が中国で監査業務を実施できるかという問いに対する答えは、「一定の条件の下では可能であるが、中国国内の法定監査報告を自由に発行できるわけではない」というものです。

中国の臨時執業制度は、クロスボーダー・グループ監査の実務上重要な役割を果たしています。しかし、その適用範囲は厳格に限定されており、国外委託者のための監査業務であること、財政部門の許可を得ること、中国国内で法的効力を有する報告書ではないこと、中国法上内地会計師事務所及び登録会計師が実施すべき業務を代替できないことを理解する必要があります。

クロスボーダー監査が日常化した現在においても、監査制度は依然として各国の国内法に基づいて設計されています。したがって、国際企業グループにおいては、監査人の資格、監査報告書の利用目的、各国法令上の有効性及びグループ監査基準との整合性を総合的に検討することが不可欠です。

Mochizuki Consultingでは、中国法、日本法及び米国制度の違いを踏まえ、クロスボーダー監査、国際税務、海外子会社管理及びグローバル・コンプライアンスに関する実務的なアドバイスを提供しています。日本企業の中国進出、中国企業の日本進出、多国籍企業グループの監査・税務・ガバナンスに関する実務上の課題については、各法域の制度を横断的に理解した専門家による検討が重要です。


中国における監査について我々のサポートを必要とされる方は、こちらまで。

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