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中国における外国籍従業員の社会保険

加入義務・日中社会保障協定・駐在員実務
2026年6月24日 by
中国における外国籍従業員の社会保険
KAZUHISA MOCHIZUKI

はじめに

中国へ従業員を派遣する日系企業や、中国現地法人を設立して外国籍従業員を雇用する企業にとって、個人所得税と並んで重要なコンプライアンス事項の一つが社会保険制度への対応です。

中国では、外国籍人員についても一定の場合には中国の社会保険制度への加入義務が課されます。一方で、日本との間では「日中社会保障協定」が発効しており、一定の要件を満たす駐在員については年金制度の二重加入を回避する仕組みが設けられています。

もっとも、「外国人は中国の社会保険に加入しなくてもよい」「日中社会保障協定によりすべての社会保険料が免除される」といった誤解も少なくありません。実際には、適用対象となる保険制度や必要な手続、さらに地方政府ごとの運用実務も考慮する必要があり、制度は決して単純ではありません。

本稿では、中国における外国籍人員の社会保険制度について、法的根拠を整理するとともに、日中社会保障協定による例外措置及び企業が留意すべき実務上のポイントについて解説します。


1. 中国における外国籍人員の社会保険加入義務

中国では、2011年7月1日に施行された社会保険法により、全国統一の社会保険制度が整備されました。同法第97条では、中国国内で就労する外国人についても、中国の関連規定に従って社会保険へ加入することが定められています。

これを受け、人力資源・社会保障部は2011年に「外国人在中国境内就业参加社会保险暂行办法(人力资源和社会保障部令第16号)」を公布し、2011年10月15日から施行しました。同暫定弁法により、中国国内で適法に就労する外国籍人員についても、中国人従業員と同様に社会保険への加入義務が課されることが原則となっています。

加入対象となる社会保険は、一般に、基本養老保険(年金)、基本医療保険、失業保険、労災保険及び出産保険の五つで構成されます。保険料率や会社・従業員の負担割合は全国一律ではなく、北京市、上海市、深圳市等、それぞれの地方政府が定める基準に従って運用されています。

したがって、外国籍従業員を雇用する企業は、中国人従業員と同様に、勤務地ごとの社会保険制度を確認した上で加入手続きを行うことが原則となります。

もっとも、制度創設当初から地方ごとの運用には一定の差異が存在しており、一部地域では外国籍人員の加入実務が積極的に運用される一方、他の地域では実務上加入が徹底されていない時期もありました。しかし近年は社会保険徴収体制の整備が進み、外国籍人員についても加入確認が厳格化する傾向にあります。そのため、従来の慣行のみを前提として制度設計を行うことは適切ではなく、最新の地方実務を踏まえた対応が求められます。


2. 日中社会保障協定による年金制度の適用除外

もっとも、中国で就労する日本からの派遣社員については、常に中国の社会保険制度へ全面的に加入しなければならないわけではありません。

日本と中国との間では、2019年9月1日に日中社会保障協定が発効しており、一定の条件を満たす派遣社員については、年金制度に関する二重加入を回避する制度が設けられています。

社会保障協定の目的は、同一の就労について日本及び中国双方で年金保険料を負担しなければならないという二重負担を防止するとともに、短期間の海外赴任によって将来受給できる年金資格が不利益を受けることを防ぐことにあります。

この協定の適用を受けるためには、日本企業から中国へ一定期間派遣される者であり、日本の厚生年金保険制度への加入を継続していることなど、協定が定める要件を満たす必要があります。また、単に要件を満たしているだけでは足りず、日本年金機構が発行する**適用証明書(Certificate of Coverage)**を取得し、中国側へ提出することが必要となります。

ここで留意すべき点は、日中社会保障協定は中国のすべての社会保険制度を免除する制度ではないということです。協定の対象は原則として老齢年金制度(基本養老保険)であり、医療保険、労災保険、失業保険等については、中国国内法及び各地方政府の運用に従って加入義務の有無を判断する必要があります。

この点は実務上誤解されることが多く、「社会保障協定があるため中国では社会保険料を一切支払う必要がない」と理解されるケースも見受けられます。しかし、実際には協定による免除範囲は限定されており、適用証明書を取得していない場合には、年金制度についても中国側で加入を求められる可能性があります。


3. 適用証明書の取得と企業が留意すべき実務

日中社会保障協定の適用を受けるためには、協定の対象となる派遣社員であることに加え、日本年金機構が発行する「適用証明書(Certificate of Coverage)」を取得し、中国側へ提出する必要があります。

適用証明書は、日本の厚生年金保険制度に継続して加入していることを証明する公的書類であり、中国における年金制度への加入免除を受けるための重要な根拠資料となります。したがって、単に日本企業から派遣されているという事実のみでは社会保障協定は適用されず、適用証明書の取得及び保管が不可欠となります。

日中社会保障協定では、通常、派遣期間が5年以内であることを前提として日本の年金制度への加入継続が認められています。また、やむを得ない事情により派遣期間が5年を超える場合には、日中双方の関係当局の合意を前提として適用期間の延長が認められる制度も設けられています。

もっとも、適用証明書を取得していない場合や、中国赴任後に取得手続を失念している場合には、中国側から年金制度への加入を求められる可能性があります。そのため、海外赴任の決定後できる限り早い段階で、日本年金機構への申請手続を開始することが望まれます。

また、中国国内においては社会保険加入状況が外国人就業許可や人事・給与管理とも密接に関連するため、人事部門、給与担当部門及び税務担当部門が連携し、適用証明書の更新時期や保存状況について継続的に管理する体制を整備することが重要です。


4. 住宅積立金(住房公积金)及び地方運用上の留意点

外国籍人員に関する制度を検討する際には、社会保険と並んで住宅積立金(住房公积金)の取扱いについても留意する必要があります。

住宅積立金は、中国の社会保険制度とは別個の制度であり、住宅購入や住宅ローン返済等を支援することを目的として設けられています。中国人従業員については加入が義務付けられている一方、外国籍人員については全国一律の取扱いが定められているわけではなく、地方政府ごとに制度運用が異なります。

例えば、一部地域では外国籍人員について加入を認めている一方、別の地域では加入対象外として取り扱われる場合や、企業及び本人の希望に応じて加入できる制度を採用している場合があります。

このように、中国では社会保険制度のみならず住宅積立金制度についても地方自治体ごとの裁量が一定程度認められていることから、「中国全国で同一の制度が適用される」と理解することは適切ではありません。

さらに、社会保険料率や標準報酬月額の算定方法についても地方ごとに差異が存在するため、中国法人を複数地域で運営する企業においては、勤務地ごとに制度内容を確認することが求められます。

近年では、税務機関及び社会保険徴収機関の情報連携が進んでおり、給与データと社会保険加入状況との整合性について確認が行われるケースも増加しています。そのため、社会保険及び個人所得税をそれぞれ独立した制度として管理するのではなく、人事・給与・税務を一体的に管理するコンプライアンス体制を構築することが重要といえるでしょう。


5. おわりに

中国における外国籍人員の社会保険制度は、「外国人であれば加入義務がない」というものではなく、中国社会保険法及び外国人在中国境内就业参加社会保险暂行办法に基づき、原則として中国国内で就労する外国籍人員についても加入義務が課されています。

一方、日本企業から中国へ派遣される駐在員については、日中社会保障協定により一定の条件の下で中国の基本養老保険への加入が免除される可能性があります。しかし、その適用を受けるためには適用証明書の取得が不可欠であり、また、免除対象は中国のすべての社会保険制度に及ぶものではありません。

さらに、住宅積立金や地方ごとの社会保険運用については地域差が存在するため、制度を全国一律に理解することは適切ではなく、勤務地ごとの実務を確認した上で制度設計を行う必要があります。

中国における人事・給与制度は、社会保険、個人所得税、労働法及び外国人就業管理制度が相互に関連する分野であり、一つの制度変更が他のコンプライアンスへ影響を及ぼすことも少なくありません。そのため、外国籍従業員を雇用する企業や中国へ駐在員を派遣する企業においては、最新の法令及び地方実務を継続的に確認するとともに、給与制度及び社会保険制度全体を総合的な観点から見直すことが、将来的な税務・労務リスクの低減につながるものと考えられます。


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